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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

山稜王(編集中)2007

88山陵王
登場人物一覧表
ケイン
ネイサン
リャン
アゴルフォス
リーファ
ネフター
ネレトバ
スターリング
マーガレット
マシュー
ハロルド
ワイラー
ハーモナイザー
地球意志
山版エージェント(?)
山陵王、NASA言語学者
前の山陵王、中華共同体人
手メラ獣、ネイサンの部下
情報省エージェント
山版エージェント
情報省長官
宇宙省長官
NASA文明学者
宇宙軍パイロット
ニューアークオペレーター
アンバサダー号船長
宇宙の精神共同体
宇宙連邦評議会の上位機構即

「リーファー君、お客さまらしい。丁寧なお山迎えん
「それではまた私の山番というわけですね、山陵王」
翼をぱたぱたさせながら言った。
「それに今度は君の知っている男だと思うよ」
 山陵王のさし山す水晶球にはある男の姿が映ってい
 「ケインー」リーファーは叫ぶ。
 「そう、ケイン君だ。処理は君にまかせるよ」
 「わかりました」リーフ。ーはやや青い顔をして、山
び立っていった。
 「大丈夫ですか。あやつとケインは友達のはずです士
 「いや彼にまかせておきたまえ。アゴルフォス」
 アゴルフォスは3対の眼をきょろきょろさせて、ぶ
うなづかせた。
 ケインはゼルシアエアポートヘ辿り着いていた。ゼート、山陵王が往んでいる国にしては、小っぽけな岑インは思った。

---------------------
89地球意志
宇宿運紀一評議会こ上位機構り ケインは飛行機から外へ出る。熱帯独特のねばついた風が、ケインの体を包んでいた。空港ビルまでのバスは昔風のタイプで、ここゼルシアでしか、もう見られないだろう。
 熱気にあてられた乗客の顔がものうげに見える。ここゼルシアは
21世紀から▽人、とり残されたような国なのだ。
 空港ビルの窓から見ると、ケインの行くべきラシュモア山が蜃気
楼で揺いでいた。ケインは空港ロビーの大きな窓に手をあてて、初
めて見るゼルシアの風景をぼんやりと、しばらくながめていた。
 「ゼルシアヘは登山ですか」ケインの荷物を見て、飛行機でニュー
アークから隣の座席に座っていた男が言った。
 「ええ、まあそのようなものですが」
 ケインはニューアークでの話し合いにひきもどされる。ケインの前任者は精神を破壊され、ゼルシアから環されてきた。その精神からはイメージコーダーは何も読みとることはできなかった。
 『一体、山陵王は何者なんだ。彼らに何をしたんだ』ケインは反問していた。
 彼の名前はネイサン。地球人で初めて「タンホイザーゲイト」から帰って来た男。そして今は、山陵王と呼ばれる男。
 彼はこのゼルシアにある地球自然保護区に往み、ラシュモア山を支配している。
 タンホイザーゲイトはこの宇宙の淵といわれ、新宇宙への門であり、ここからは別の世界が始まるといわれていた。
 30年前、恒星星間船アンバサダー号は送り込まれ、そのアンバサダー号は最近帰還してきた。が乗組員で生き残っていたのはネイサンだけだった。
ヽ’ト、山陵王か住んてレる国にLてぱ、小Tぼけな空港だ,そうケインは思った。
 ネイサンは宇宙省の徹底的な心理分析を受けた。 ネイサンの心は空白だった。地球を出発して以降、三〇年間の記憶はまったく残っていなかった。
 ネイサンは宇宙省のリハビリテーションセンターから、姿を隠した。というよりも逃走したのである。
 その後、宇宙省の執拗な捜索にもかかわらず、彼の行途は洋として知れなかった。
 やがて、彼の存在があきらかになったのは、ある雑誌に発表された小説からだった。
 ネイサンの小説は、いわば、言語によるドラッグだった。その作品を読んだものは、ネイサンの言語による想像力の爆発に酔いしれた。
 彼ネイサンの作品は、「21世紀のバイブル」と呼ばれる存在まで評判を高めた。
 各出版社、映画会社は、彼の居場所を知ろうとしてやっきになった。
 が、彼の出版エージェントは仲々、口を割ろうとはしなかった。 彼の居場所がわかったのは、宇宙省のエージェントによって、その出版エージェントネフターが圧力を受けたからだと言われている。
 彼はゼルシアにあるラシュモア山に住んでいた。
 ラシュモア山はこの地球で残された唯一のエルドラド、この21世紀の地球から、あるいは時間の流れから切りはなされた別世界だった。
 過去、ラシュモア山には多くの「世捨て人」が流れ込み住んでい89
---------------------た。またラシュモア山城には宇宙産のドラ。グ、「ドラガ」が栽培されていた。
 このラシュモア山あたりの天候は、衛星からのカメラの眼を逃がれるために、つねに雲に披われている。その雲をラシュモア山の住民が造り出していると思われていた。
 エアポートから山裾まで、観光ジェットバスが出ていた。ケインはバスに乗り、ラシュモア山をのぞむ観光用ベランダハウスヘ着く。
 観先客がバラバラと展望台へ向かう。そのけんそうにまぎれて彼は展望ベランダから他の人間に気づかれぬように、ラシュモアヘ続く山道へ降りた。準備をしてから、ラシュモフ山への山道を登り始める。ケインはリュックを用意していた。
 山道の前には絶壁が見えている。そのシアリー絶壁を越えなければラシュモア山に辿り着けない。
 いわば、ラシュモフ山はシアリー絶壁というバリアーに守られている聖域なのだ。このシアリー絶壁を登るには人の力にたよるしか他に方法はなかった。シアリー絶壁あたりは気流が悪く、うずまいていた。ヘリコプターは危険で近づくことはできない。
 ケインは昔ながらの登山道具を使い、シアリー絶壁を登り始めた この絶壁を登り切ることが山陵王に会うための試練の1つだった。 山陵王とはネイサンの作品の1つのタイトルでもあった。彼はこの「山陵王」の小説によって21世紀殼大のノベリストとの賛辞を得たのだ。
 ケインの体から汗が吹きでている。このシアリー絶壁の上はどうなっているのか。この上のラシュモア山の密林の内に何かあるのかわかってはいなかった。もうすでに地球ではあまり見られなくなった動植物も棲息しているともいう。自然の宝庫とも呼ばれる。21世紀の秘境、そしてエルドラド。
 シアリー絶壁は21世紀の機械の侵入を拒否していた。それゆえ、人々は自らの力でこの絶壁を登らなければならない。
 ケインは下界の方をかいま見た。観光ベランダから登り口に通じるところは墓地になっていて、各国の人々が埋葬されていた。皆このシアリー絶壁を登ろうとして墜落したというわけだ。
 そんな努力をして手にいれた原稿、それはいわば「神の言葉」かもしれない。ケインはそう考えた。
 各出版社とも、「山陵王」ネイサンの原稿をもらおうと決死隊を準備していた。が彼の原稿を手に入れることができた出版社は少なかった。
 彼の原稿をもらい出版すれば、世界的なベストセラーは約束されていた。彼の小説はそれを読む人々に新しい精神世界を切り開いているのだ。
 羽音がする。すでにまわりは霧に包まれていて、目の前の山壁しかケインの眼にははいっていない。
 飛行体。一体何だ。鳥がこの壁に巣でも作っているとでもいうのか。
 巨大な物体が、ケインの頭上を通りすぎた。空気の振動がケインの体に伝わってきた。
90---------------------
91た(心だ。
 ケインの体から汗か吹きてている。このノアリー絶壁の上はと 『ケイン、ここから立ち去れ、お前の目的はわかっているそ』
 ケインの心の中に、直接、声か響いてきた。さらに心の声はる。 『俺は警告しているのだ。これ以上、もう登るな、これ以上登れは、俺もお前も、もう後もとりはてきない』その心の声にケインは記憶から何かを思いおこさせた。
 「お前はりーファ~しゃないのか」
 思わすケインは羽音のした方へ叫んていた。
 「お前生きていたのか」
 再ひ、羽音と空気振動かケインの体に近ついてくるのかわかった。 『ケイン、俺の今の姿を見せてやろう、そうすれは、お前も、考え直すだろう』
 翼の音か壁の上の方て止まった。ひたひたと垂直な壁をすべるように何かか降りてくるのか、ケインに感しられた。
 「ケイン」
 そいつは霧の中から姿を現わし、ケインに話しかけた。ケインは思わすロープから手を離しそうになる。この化物は。本当にりーファーなのか。
 「リーファー、お前か」
 「そうだ、俺たよ」
 そいつはりーフ。ーの顔と、始祖鳥の体を持っていた。
 そいつは言った。
 「ケイン、悪い事はいわん、戻れ。これは友人としての意識か戻っている俺の、最後の警告だ。俺というりーファーの意識かなくなれは、俺の体は勝手に動き、お前を地面にたたき落さなけれはならん」
 巨大な物体か、ケインの頭上を通りすきた,空気の振動かケインの体に伝わってきた。
 「リーファJ、一体、何なのだ。とうしたのだ」
 リーファーの顔を持つそやつは、答えず、羽音をたてて急に飛ひ去っていく。
 ケインは、しはらく、呆然として、その壁の上て動かないていた。 リーフ。ー。エーシェントとしては最高ランクのA。ケインの友人。
 次の瞬間、羽音かした、そして、ケインの肩に痛みか走る。一瞬、ケインは体をひるかえしたのて助かったのだ。勤かなけれは、そいつの牙は、確実にケインの右腕をもきとっていただろう。日頃の訓練か、ものをいったのだ。
 「リーファー、やめてくれ」
 叫んているケインの眼の前に奴か出現した。
 ケインは、その時、リュックの梅に装着していたフクスをつかみ、そいつ目かけて、振りおろしていた。フクスはりーファーの眉間に突き立つ。
 奇妙な叫ひ声かあかる。リーファーはアクスから体を放そうとする。ケインのにきっていたアクスの柄の部分かメ牛メ牛ときしみ、リーファーの体の勤きか伝わってくる。彼は暴れている。断末魔の苦しみた。血しふきかケインの体に飛ひかかる。急激な力かケインの手にかかり、次の瞬間にはなくなっていた。アクスの柄の部分か折れて残っている。叫ひ声をあけ、リーファ~はケインの所から飛ひ立っていた。
 次の瞬間、柄の残った部分をりーファーの眼に突き立てる。リーファーはのけそり、翼をひろけ、ひとなきした。ケインの体はもろに岩壁にふちあたる。ケインも叫ひ声をあけた。数10メートルすりおちる。
91
---------------------
92 ふらふらしながら、リーファー鳥はケインをねらう。ずりおちた
ケインの体の上に全体重をかけ、足爪でケインをひきさこうとする。
ケインの足は岩場の突出部分にかろうじてかかっている。ゆるんできたロープがケインの体におちてきた。ケインはロープの一端をつかみ、残りを投げる体勢をとる。素早く、後へ体をのけぞり、リーファー鳥の首にロープをかける。一まきしたのち、端を岩にかけ、全体重をロープにかけて、飛びおりる。岩場をケインは落下する。一瞬何かにひっかかり、降下が止まる。上の方から声にならない絶叫が響いてきた。大量の血が雨の様にふってくる。ガクンと再びケ
インの体が墜ちる。ケインは何とか足場をみつけ、そこに踏みとどまる。大きなかたまりが、壁にぶつかりながら、墜ちてくる。リーファーの頭部がちぎれておちてくるのだ。がりーフ。ーの眼は、不思議に安堵の色をたたえていた。一瞬だったが、リーファーの眼の色をケインは忘れることができないだろう。
 「くっ、リーファー」
 ケインは壁の上で、何かわけのわからない感情の爆発かおり、涙を流していた。しばらくは、その岩場でむせび泣いている。
 ケインはもう後戻りはできない。リーファーは彼の前任者の一人だった。リーファーに何かあったのか、ケインには理解できなかった。理解しようとも思わなかった。
 絶壁をようやくはいあがったケインに何の感動もなかった。これからおこるであろう危険に体をこわばらせていた。
 が、あたりの風景には少し心が動く。他の人間にはやはり感動的なものだろう。そのジャングルだった。
 子供の頃、学習場でVTRを通して見たことのあるジャングルがここに存在していたのだ。
 このラシュモア山は高い山の上で、低温のはずだ。
 が、ここはまぎれもなくジャングルであり、ジャングル独特のムッとした熱気がケインの体を包んでいた。密林のため遠くの方まで見渡すことなどできはしない。道ともない。
 ケインはどう進めばいいのか、考えあぐねていた。
 「お前、どこへ行くつもりだ」
 ケインの背後から声がした。それは、生き物の声ではなく、造り物の声だった。ケインはうしろを振り向く。
 牛メラ怪獣だった。この世の中で一番醜いと言われるアゴルフォスがしゃべっている。
 豚の顔に大きな角をつけ、全体にぶょっとしたあざらし風の皮膚をしている。短躯で、おまけに三対の眼は、あちこちを見ている。
その六つの目玉が常に勤いていて、おちつかない。しっぽももうしわけ程度に付いている。
 シャナナ宮殿で、護衛をしていた牛メラ獣がアゴルフォスだった。が外見とは違って頭は良い。がなぜアゴルフォスがこんな場所にいるのだ。ケインは考えた。
 「そういうお前は何者だ」
 ケインは逆に問いかえした。
「我輩の事を知らんだと」
 アゴルフォスは気持ちの悪い笑い声をあげた。
92
---------------------
からおこるてあろう危険に体をこわばらせてペン≒ が、あたりの風景には少し心が動く。他の人間にはやはり感動的
「ケインよ、お前はここに何をしにきた」 なぜ、こやつは私の名前を知っている。そう考えるケインにアゴルフォスは続けた。
「なぜ、我輩が、お前の名前を知っているのか悩んでいるな。ケイン、お前の名前を知っている以上に、我輩は色々な事を知っている」
 「くそっ、お前は何だ」
 「シャナナ宮殿にいたアゴルフォスさ。見ての通りだ。ただ、他の奴らと我輩との相違点を言えば、我輩が、このシアリー壁から先の、守護人という事だ」
 そのフゴルフォスはそう言うが早いか、ケインの方に突進してくる。
 ケインは素早く、その体をさけようとする。が左肩に激痛が走る。肩口がパックリさけている。
 アゴルフォスは遠くの方から話しかける。
 「ケインよ、我輩の空気切りの技から逃がれられるかな」 アゴルフォスの体は、植物がじゃまになって、はっきりとは見えない。
 そやつは再び、ケインに向かい走り出してくる。アゴルフォスの武器は一体何なのだ。空気切りだと、あの短い手足のどこに武器を隠しているというのだ。
  一瞬、アゴルフォスの体が目の前にあった。今度は先刻、リーフアー鳥にやられた右肩から出血していた。
 下ばえの草を通して声が聞こえていた。ケインは声の方へ進む。植物をかきわけながら。
 岩の上にアゴルフォスは腰をかけている。
一我輩心事を虻らんたと】 アゴルフォスは気持ちの悪い笑い声をあげた。
「ケイン、お前が過去にどんな事をしたか、お前に代わってしゃべってやろうか。それになぜここにきたかもな」
 アゴルフォスはにやりと笑っている。
「やめろ、なぜ、お前は:こ「なにゆえに、我輩が、お前の過去を知っているのか聞きたいか。それは・:」
「アゴルフォスよ、やめるんだ」
 その声は天空から響いてきた様にケインは思った。声は続ける。
 「他人の過去をとやかく言うではない」
 アゴルフォスは上の方を向いて答えた。
 「でも、山陵王、こやつは・:」
 「いいんだ、その人は、私から原稿をもらうためにこられた方なのだ」
 声はケインヘの質問に変っていた。
 「そうだね、ケイン君」
 ケインはその声に圧倒され、答えている。
 「そ、そうです。あなたが山陵王なのですか」
 「でも、山陵王、こやつの正体は」アゴルフォスが横から口を入れようとした。
 「やめろというのだ、アゴルフォス」
 突然、空か曇り、稲妻が走った。大きな音がする。何度目かの稲光りが、ケインの目の前におちた。アゴルフォスの体が白熱する。
 「ぐわっ」
 アゴルフォスは前のめりに倒れる。体は黒こげになっている。がしばらくして顔をあげる。
-93
---------------------
94 「山陵王、な、何をなさるのですか」
 「お前が、私の命令に従わないからだ」
 「が、こやつは、山陵王の秘密をねらっております」
 「だまれ」怒りの声は、フゴルフォスの体をふるえさせた。が山陵
王の姿はまったく見えないのだ。
 先刻よりも大きな光が、アゴルフォスの体を包んだ。
 「わかった、アゴルフォス、私の命令は絶対なのだ」
 アゴルフォスは身動きしない。ケインは今度こそアゴルフォスが死んだかとも思った。
 「さて、ケイン」
 声はケインにしゃべりかけてくる。
 「お前は、私の原稿が必要なのだな」
 「そ、そうです」
 「ケイン、その船に乗れ」
 ケインの前に、突如、川が出現している。その川は山の中央部にむかって流れていた。迷流しているのだ。その川の岸にある小船を声は示しているようだった。
 「この船は一体」
 「この黄泉の川を辿って、私の山上宮殿に辿りつくための船だよ。
夢想船ともー呂う。舵はアゴルフォスがとる」
 「では、この船であなたの元へ行けるわけですね」
 「そういう事だ」
 ケインは船にのった。ケインにとっては初めて体験する密林の川なのだ。が彼は今、ロケ。トの内部にいて、機械類に包まれているよう言言言を谷し辻『. 安心のせいだろうか、ケインの眼じりが重くなる。警戒心があれ
ば、眠れるわけなどないのだ。がケインは船の中に横たわる。上からアゴルフォスが言った。
 「安心しろ、ケイン、山陵王がああ言われる以上、山上宮殿までは安全だ。我輩はお前を攻撃はしない」
 アゴルフォスはにやりと笑ったように感じた。それがケインの意識が最後に見たシーンだった。
 「これから、精神攻撃が始まるのだよ、ケイン。君の過去に立ち戻ってね」アゴルフォスがほくそえみながら、ケインの寝姿を見ていた。フゴルフォスは黄泉の川へと船を出した。
 リャンは自分自身が作りあげたこの山上宮殿が気にいっていた。
ここちよい風が美女達があおぐ扇で送られてくる。この宮殿からのながめは最高で、部下達が丁寧に育てているドラガの畑を眺望できた。
 ドラガの畑は、実りの季節を迎えている。それは彼リャンに莫大な利益を与えてくれるのだ。
 リャンはこの南国ゼルシアの闇の帝王であった。 彼がこの国にもたらす闇の金がなければ、この国の経済はなりたたないといわれた。幸い、彼の領土は地球自然保護地区にあり、地球連邦に関するカモフラージュにはうってつけなのだ。
 リャンは中華共同体の貧しい農民の五男として生をうけ、若年の内は苦労が多かった。加上海の宇宙空港の苦力として務めてからは追加開けた。空港は一昔前の上海港の様に、闇の経済が支配してい-94
---------------------
95た。彼はそこで宇宙ドラッグシンジケートの下働きとして出発し、上の地位へと登りつめていった。
 が、日本ヤクザと大韓民国暴力団との抗争事件にまきこまれ、上海から姿を隠さなければならなくなった。リャンはゼルシアに密入国した。幸いにも、この国のクライムシンジケートはリャンの舎弟で、同じ省出身のコンファがにぎっていた。コンファの勢力をバックに、彼はゼルシア内に宇宙塵麻薬ドラガの栽培地を求めた。それがこの地ラシュモア山であった。山の名は、ゼルシアがアメリカ大国によって解放された時、当時のゼルシア大統領ゼーランジアが、
アメリカ大国にごまをすり、名づけたのだ。現在ここは地球唯一の自然保護地域となっていた。
 ドラガはこのラシュモアの気候に適合し、一大繁殖した。ドラガがリャンにおとす金は天文学的数字であった。コンファを裏切り葬り去った後、いつしかリャンはこう呼ばれていた。「山陵王」と。
 山陵王となってからのリャンは身辺の防備に異常な程気をつかっていた。つまり、このラシュモア山は別の意味で金山だった。誰かがリャンの寝首をかけば金山はそいつの手にころがりこむのだ。
 ラシュモア山の各所には防衛ラインが張られていた。シアリー絶壁を登るのは至難のわざであり、さらに上からよく見える下の間道は手下ががっちりとおさえていた。
 リャンのまわりには南国ゼルシアの美女達が集められていた。リャンの金力でゼルシア中から狩り集められた美女ばかりだった。彼女らは彼のまわりにはべり、身のまわりの世話をした。ゼルシアは、また美女の産地でもあったのだ。リャンの頭の中には中国の昔の英雄のイメージが思い浮んでいた。
 彼はベッドに横たわり、わきのテーブルの上に、山と積まれた南国産の果物に手をのばし、それを食しようとした。
 その時だった。ドラガ畑の真中に、▽人の男が出現するのをリャンは見た。自分の眼をこすってみた。ありえない。最初は幻かと思った。がその男は、まぎれもなく存在していて、リャンの宮殿の方へと歩を進めていた。
 部下達が、その男を制止しようとするが、逆に部下の体が静止して動かなくなる。
 見ている内に、男はもうリャンの横たわるべ。ドの前に立っている。
 見知らぬ男は長身で、その眼は冷たい湖を思わせた。 「今日から、私が山陵王だ。リャン、ここを立ち去れ」       } 「何だと、笑わすな、誰かはしらんが、俺に対して冗談を言った瞬 95開か最期だと{(ところでヽお前ヽどこからここまで辿り着いた  一
のだ」
 男は空を指さす。
 「上からやってきた」
 「空からだと」リャンは笑いころげる。
 「お前は何さまのつもりだ。第一ここラシュモア山には、どんな飛行物体も近づけるわけはないのだ」
 「が現に私はここにいる」
 「だから不思議なのだ。お前は何者なのだ」
 「だから、先刻から言っている。山陵王だと」
 「もう、お前のおふざけにはつきあっておれん、こやつをとらえろ」
 部下は侵入者を取り押えようとする。
---------------------
96/
 「やめろ」その男は叫ぶ。手下たちの体は動けない。その男の言葉が頭の中でトゲの様につきささり、その声で命令を受けているようなのだ。
 「リャンを葬れ」その来訪者は皆にむかって言った。手下達はその言葉を夢見ごこちで聞き、言葉に従おうとする。
 リャンはあわてて「こら、お前達は何を考えている。俺は山陵王、敵はあやつだ」
 「むだだよ、リャン、君の山陵王としての役割は終りだ。今日、この日から、私が君にかわり、山陵王となるのだ」
 リャンは侵入者の顔をやっと思い出した。
 「お、お前の顔は、ニュースで見た事がある」
 「記憶がいい男だね、リャン」
 「お前はネイサンだな、お前ら、こいつは犯罪人なのだぞ」
 リャンの言葉はあとが続かなかった。リャンの体は手下たちによってなぐられ、けられる。今までのリャンの圧政に対する報復なのだ。リャンに対する反発や怒りが集中されていた。しばらく後リャンの体は骨がくだけ、皮膚は破れている。
 「リャン、静かに眠りたまえ」
 ネイサンが言った。リャンは夢の中にいる気分だ。夢の中でリャンの姿は子供になっていた。故郷の花畑の中で遊んでいる。リャンは考える。一体、俺の一生は何だったのだ。その時、ネイサンのとどめがリャンの心臓を直撃し、リャンの意識を闇が包みこんだ。
 「いいか、今日からは、私が山陵王だ。世捨て入の諸君、私の命令に従いたまえ、そうすれば、今までよりもすばらしい桃源境をここに出現させ、君達を解放してさしあげる。ここにいれば、「ドラガ」によるトリップよりもすばらしい精神的恍惚感を味わさせてあげよう」
 その時のネイサンの声は人々の耳に甘美に響く。音に香りがあり、
味があるような気がした。彼の声は一人一人の耳を通じて、頭の中心部にパルスとなって伝えられて、人間の五感を刺激するようだった。
 「私の片腕を紹介しておこう、アゴルフォスだ」
 醜い顔をしたシャナナ宮殿のキメラ獣が出現していた。人々は驚きの声をあげた。
 ケインは世捨て人の▽人に自分の意識が投下されているのを発見する。アゴルフォスがこちらを見てにやりと笑っている。これは夢なのか、現実なのか。山陵王ネイサンは私に何を体験させようというのだ。ケインは思った。
 ラガナ砂漠に砂嵐がおこっていた。この季節にはいつも砂嵐が吹いている。近くの町からは数100キロはなれた宇宙省のリハビリテーションセンターに収容されている人は何かしらいわく因縁があるといわれていた。
 リハビリテーションを守備している兵士は外に対してではなく、内に対して警備しているのだ。
 ここにはシャナナ宮殿の牛メラ獣、アゴルフォスが収容されていた。彼は超能力を持つので対ESPバリヤーがはりめぐらされ部屋96
---------------------
97にいた。
 『アゴルフォス』彼を呼ぶ声がした。
 『誰だ、我輩を呼ぶのは』アゴルフォスはベッドから頭をあげる。声は精神内の声だった。 『お前の近くに収容されている男だよ』
 『名前は』 『名前か、名はネイサンだ』
 『そのネイサンが、我輩に何の用があるのだ』
 『お前、ここから出たいか』 『あたりまえだ。我輩はこんな場所に居るべき輩ではない』
 『ふふ、牛メラ獣が何をいうんだ』
 『ネイサンとやら、我輩を見くびるではない。我輩はシャナナ宮殿にいたキメラ獣だぞ』
 『あのサイ牛。ク帝国にいた牛メラ獣というわけか』 『そうだ。もし、このバリヤーさえなければ、我輩のすばらしい能力を見せてやれるのだが』 『ふふ、所詮は大の遠吠えだ。いいか、アゴルフォス、もし私がバリヤーをこわしてやったら』 『何だと、お前はただのアストロノーツではあるまい』
 『私はネイサン、聞いたことがあるだろう、タイホイザーゲイトから遠ってきた男だ』
 『記憶喪失の男か』『私が単なる記憶喪失の男かどうか』 「ぐわっ」
アゴルフォスはうめいた。頭の中心部がしめつけられるようだ。頭の中に膨大なデータ、人智を越えた知識が一度に送りこまれた。頭のラインがオーバーランしそうだ。アゴルフォスは白眼をむき、だ液を口からたらしている。鼻血が流れ始める。眼も充血して飛び出してくる。体のあちこちの血管が皮膚からぼこぼこと浮き出してくる。血液が沸騰していた。
 「や、やめてくれ、発狂する」
 『どうだ、アゴルフォス、私がどれ程の力を持つかわかったか』「わかった。ネイサン、あなたはただの人ではない」 『私を収容室から連れだせ。お前を一緒に連れていってやる』 「このリハビリテーションセンターから出してくれるというのだな」 『そうだ』 「その前に、この部屋のバリヤー装置をこわしてくれ」
 『わかった』
 アゴルフォスの部屋が振勤した。ほこりが舞う。壁にひび割れがおき、壁面が内側にやぶれ倒れてきた。壁に埋めこまれていたバリヤーマシンがむきだしになった。そいつが火を吹き出し、爆発する。瞬間、大声がアゴルフォスに聞こえてくる。
 『いいか、アゴルフォス、私の呪縛を解け』
 「ぐわっ」アゴルフォスが咆呼する。長年の拘束から、彼も解放されたのだ。
 地球軍によって、サイ牛。ク帝国が滅ぼされて以来、初めて自由になれたのだ。体じゅうの筋肉がびゅんとはりつめた。とぎすまされた神経がよみがえってきた。体じゅうに力がみなぎっていた。 『アゴルフォス、早く、私を肋けるのだ。お前の怪力が必要なのだ』 「わかった。どこなのだ」アゴルフォスの頭の中にネイサンの居る収容室の場所が示された。
 アゴルフォスは回廊に飛び出す。兵士が武器を構えていた。アゴルフォスが片手をふりあげる。兵士とフゴルフォスの間は5m程あいているのだが。兵士の両手が体からちぎれて飛んだ。血が天井まで吹きあがる。更に手を動かす。頭がちぎれて天井にはねあがる。
97-
---------------------
98脳しょうと体液が天井から廊下におちてきた。廊下はまるで死体解剖室だ。
 「ふふっ、久しぶりの快感だ。空気切りの技」 次々と兵士が送られてくる。アゴルフォスはいとも簡単に兵上達を処理した。回廊はばらばらになった人体の手足や、内臓がころがっている。
 アゴルフォスはネイサンから示された部屋のドアを破壊する。ネイサンの収容室へ足を踏み人れた。瞬間、アゴルフォスは水りついた。眼がみひらかれる。「こ、これは何んという」アゴルフォスは青くなった。
 空間に男が浮んでいる。脹はとじられ、身動きしない。心臓音も聞こえてこない。肌は血はかよっていなくまるで石の肌だ。見知らぬ者が見れば、そいつは空間に浮んでいるキリスト像に見える。男の体は光っていて、光球の中にいる様だ。その石像から心の声が聞こえる。
 『ようやく、来たか、アゴルフォス』 「あ、あなたは神なのか」
 『神ではない。がこの地球ではもっとも神に近い存在だろう』
 「あなたは死んでいるようにも見えるが」
 『死んでいる。生きている。そんな地球的尺度からは、私は超越している』
「石像の様に見える」アゴルフォスはうめいていた。心なしか体がふるえている。
『いいか、君の見ている私の体は、固いコアに包まれているのだ。いわば羽化直前のさなぎと考えてくれ。それゆえ私の意志の力ではなく肉体的な君の力が必要なのだ』「わかった。ネイサン、あなたに従おう」
 リハビリーテーションセンターから本部への連絡がとだえ、2時間たつ。ラガナ砂漠の上をジェットヘリが飛んでいる。
 「本部、どうぞ、こちら探索ヘリです」
 「リハビリテーションセンターは見えたか」
 「いえ、それが今だに発見できません」
 「何だと、座標をチェックしろ」
 「それが何度、チェックしてもその位置には建物が存在しないのです」
 ヘリの飛び廻っている場所は他と変らぬ砂漠だ。そこには建物の  一
残骸も残ってはいない。                      98
                                 一

 フロント街にある宇宙省長官室。
 二人の男が深刻な顔でCRTをながめていた。
 「ここが問題の場所だ」白髪の男が言った。
 彼らは探査衛星から採取したVTRテープを見ているのだ。
 CRTの画像上で、リハビリテーションセンターの建物が瞬時に、収斂し、次の瞬間には消滅していた。
 「これが、ネイサンの仕わざというのかね。ジェイムズ」ブラウンヘアの長身の男が言う。
 「そうとしか考えられんよ、牛ーン」
 白髪の男は立ちあがり、テーブルの上のコ。プにリゲル酒をついだ。

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99 「センター内のカメラアイは本部に、アゴルフォスが逃げ出し、兵上達をなぶり殺しにする所までは送信していた」
 「で、それからアゴルフォスは」
 T不イサンの収容室へ入り込んだようなのだ。そこからカメラが破壊された」
 「考えられる逃げ場所は」牛ーンと呼ばれた男が尋ねる。
 「わからん、ネイサンには係累はない」
 「わからんだと、それではどこかの空間へ逃れたかもしれんのだな、ジェイムズ。それならば、『地球意志』に報告せねばなるまい」
 「そうだ。それに彼の抹殺指令も出してもらわねばな」
 二人の男は情報省長官、牛‐ン=ネレトバと宇宙省長官、ジェイムズ=スターリングだった。二人は評議会ビルヘ向かう。
 ケインは、ある時はアゴルフォスの意識となり、ヘリのパイロットとなり、さらに長官室の空気ともなっている自分に気づく。
 が、ケインの夢の旅は終りそうにはない。これは夢ではなく、過去の出来事を山陵王が再現しているのかもしれんとケインは思う。
「ネフター君、ネイサンの作品を出版するのをやめていただきたいのだが」
 出版エージェント、ネフターは、出版社でネイサンの本についての会議中、強制的に宇宙省ビルにつれてこられた。
 この宇宙省ビルからは、夜中でも光が輝き、真昼の様に見えるニューアーク宇宙空港がよくみえる。いくせきかの船が飛び立っていき、また戻ってくる。ネフターは、その光景をながめ、前に座っている老人に答えた。
 「とおっしゃいますと」
 「彼の作品は地球人類に悪影響を与える」
 宇宙省長官ジェイムズ=スターリングは、大きなチーク材の祖にすわっていた。
 「21世紀の禁書というわけですね、長官。でも民衆の声を無視するわけにはいかんでしょ」
 スターリングは白髪で学者然として60歳の精力的な男だ。
 「というと、君はネイサンの作品を地下出版ででも出すつもりかね」 「そうです。いいですか。ネイサンの言葉はいまや神の言葉なのですよ」
 ネフターの返事には力がこもっていた。そう俺はひょっとしてネイサン教の伝導者かもしれん。ネフターはそう思った。
 「それがこまるのだよ」別の声がする。横のドアから2mくらいある長身の男が現われた。
「牛ーン、登場するのが早すぎるのじゃないか」スターリングはその男に言う。
 「いやいい、ネフター君、自己紹介しておこう。私が情報省長官、牛ーンH‥ネレトバだ」
 「わかっております。あなたが我々の出版界を『地球意志』の下におこうということは充分にわかっております」
「君の理解力はすばらしいよ、ネフター君」
 キーンはスターリングの酒棚から持ってきたリゲル酒をグラスに99
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100
りいれて飲んでいる。
 牛ーンはネフターの肩に手をおき、「リゲル産の酒だよ、どうだね」 「牛ーン、その酒は」 「わかっているよ、ジェームス、この酒が特殊なのはわかっている。さあネフター君、この酒を飲みたまえ」
 「いや、それは:」ネフターは三人の背広姿の男達に押さえつけら
れている自分を発見する。口を開けさせられ、無理やりにリゲル酒
が流し込まれる。 「窓を開ろ」ネレトバが男達に命令する。地上45階の窓は三重窓になっていた。ようやく全開される。
 「いいか、ジェームズ、こ奴は、事故で死ぬ。リゲル酒を飲みすぎて、頭がおかしくなり、窓から飛び降りたのだ。ジェームズ、わかっているな」
 「わかった。牛ーン、君にまかせる。君の好きなようにしろ」スターリングは自室を出ていこうとして、ドアの所でふりかえる。 「いいかね、半ーン。こんな事は、今度からは君の部屋でやってくれ」スターリングはドアを閉めた。 ネフターは背広姿の三人の大男にさからっていたが、勢いをつけ、
窓の外へ放りなげられた。
 「うわっ」ネフターの目の前で、空港の光や街の光がくるくると廻る。風が急激にネフターの体をおそう。落下しているネフターは気を失ないそうになる。その瞬間、ネフターは上から肩をつかまれた。落下がとまる。ネフターはゆっくり上を見上げた。そこには見知らぬ男の顔があった。が下は鳥の姿なのだ。ありえない。これは悪夢だ。ネフターは気を失なった。下の階へのストリ。プロ‥エレベーターに乗っていたスターリングは叫び声をあげていた。
「リーファーー」 ケインはまたもや、意識がスリップしている事に気づく。初めはネフターで、あとはりーファーの意識だ。
 出版社が並らんでいるヤルタ=ストリートをネフターが歩いていた。頭はほとんどはげていて、後頭部にすこしまき毛が残っている。
いつも体を折りまげて歩いている。年齢は57歳で独身だった。東欧共同体からの亡命者で、今はアメリカ大国に住んでいる。 ネフターは出版エージェントとしては二流だった。彼はこのヤルタリストリートで数々のベストセラーが生まれていくのを指をくわえて見ているだけだった。彼と契約している作家たちはベストセラーになるのにはおこがましい三流の作品ばかりを書いていた。彼が育てようと努力した作家は、売れる作品を書きだすと、ネフターと
おさらばして別の出版エージェントにくらがえした。
 「この恩しらず」と彼はその作家にどなりつけ、本の山をなげつけた。
 東欧共同体から逃げ出した時、彼には語学の才能しかなく、最初はしがない翻訳書のゴーストライターとして糧を得ていた。
 やがて彼の訳した本が何冊かベストセラー近くまで行った時、彼は出版エージェントの仕事に乗り換えた。がヤルタの出版界はそう甘くはなく、いまだにベストセラーの鉱脈にはつきあたらず、年
月を重ねてきたのだ。 背を丸めて歩いているネフターを呼びとめる声がある。
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101 「ネフター、ネフター」ネフターは空耳かと思った。
 「ネフター、お前だよ、私が呼んでいるのだ」ネフターは歩を止め
た。声はヤルタ通りの朧の暗がりから聞こえている。
 「おい、俺は金はもっていないぞ、追いはぎをするなら他の奴を選
べ」心なしかネフターの声はふるえていた。
 「追いはぎだと、バカをいうな。逆に君を金持ちにしてやろうとい
うのだよ」声は冷やかだった。
 「金持ちだと、俺をからかうのをやめろ」ネフターは逆に怒りにと
らわれて、声のする方へ進んだ。眼があった。
 その眼は人間の物とは思えない。人間以上の何かだった。
 「ネフター、私の原稿を出版したまえ」
 男だった。その男の前でがくと思わずネフターは足がくだけ、膝
をついている。
 男の声はネフターの心にしみいり、頭の中でもこだましていた。
それは有無を言わさぬ力強いものだった。あらがいようもない。
 「わかりました。出版社に交渉いたします。で、あなたのお名前は」
丁寧な口調でついしゃべってしまう。
 「ロバート・H・ネイサン」男は静かに言った。
 「あとの連絡はどうしたらよろしいでしょう」
 「私の方から君にする。それでいいな」
 「わかりました」
 男はくるっと後を向き、闇の奥へ消えた。うす暗がりに続く者が
いた。ネフターの方をふり向きにやりと笑う。ネフターは背すじが
ぞくっとした。そいつは牛メラ獣だった。
 ネフターは狐につままれた気持ちでブリックリンにある自分のア
パートヘ帰った。
 虚脱状態だった。あかりのスイ。チを入れ、先刻手渡された原稿
を机の上に置く。
 だまされたのではと思いながら、その原稿を読み始めた。やがて
ページをめくるネフターの手はふるえていた。
 手はテレビフォンにかかった。相手が出る。
 「どうした。ひどい顔だぜ、ネフター」
 「たいへんだ。すごい莉をあてたぜ、ジム」
 「おいおい、寝ぼけるのはまだ早いぜ」
 「だまれ、今からお前のところへ行く、印刷機オペレーターを呼んでおけ」
 かくして、ネイサンの作品『空間のかなたへ』が発行された。そしてベストセラーとなった。
 ネフターが初めてネイサンの作品を発行した瞬間の喜びをケインは味わっていた。
 その船を発見した時、マシューは自分の眼の錯覚かと疑った。しかしレーダーの光点はまぎれもなく、その船の存在を証明している。
 マシューは地球防衛軍の単座戦闘艇に乗っている。 CRTに映っている船は″幽霊船″だった。これは伝説の船、10年程前から、太陽系をうろついている幽霊船だ。
 その船が、なぜここ地球絶対防衛圈まで、他の船に発見されずに流れついたのか不思議だ。
 船は、病原菌に犯され、腐敗している汚物の様に見えた。マシュ
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103「あったぞ、ハロルト、とうやらこれらしい。ナンハーを読むぞ。
NASA-心っ心∞w心た」
「OK、マシュー。モニターTVても確認てきた。テータをメインハンクてサーチする」
 「NASAとは何たね」
 「おいおい、マシュー、大丈夫かね。アメリカ宇宙局の略だ。アリカ大国宇宙省の前身しゃないか。よし、テータか解析てきた。その船は  」ハロルトか言いよとんだ。
 「とうしたハロルト」 「その船はアンハサター号だ」 「何たって」
マシューはしはらくして言った。
 「子供の頃、俺は何かの本かVTRて見たことかある。人類初の恒星間船、そしてタンホイサーケイトを目さした船のはずだ」
 「そう言う事だ。こいつはえらい事になった」
 ケインの意識はまた、マシューのイメーシを読みとっていた。か何かしら、ケインの体を見られているような、カメラて映されている様な変な気分たった。
 アンハサター号は宇宙ステーションDELまて曳行され、調査された。
 DELは地球上空に多数浮かんでいる宇宙省のステーションの1つた。
 内部透視解析によって船体かサーチされる。
「これは::・」解析士ョーマンは声をあけ上役を呼んだ。
このCRTを見て下さい」
 上役の解析官ラマも声はうわすっていた。
 「これはコートなのか」 「とうやらそのようです」ョーマンか答えた。
 アンハサター号の内部はコードて一杯たった。まるてコードをア
ンハサター号という入れ物て包んたという然した。
 「こいつはまるて密林の中だ。コートというつたか機械という枝や根を包みこんている」ラマか言う。
 その時、解析士か叫んていた。
 「生体反応あり」
 「とのあたりた」ラマは別のCRTをONした。
 アンハサター号の立体設計図かプロシェクトされCRTに同化された。
 「中央部、冬眠チューフ付近てす」
 「冬眠チューフたと、古いタイプたな、通称コフィンたな」
 「解析官、これを見て下さい」
 「何だ」
 「これは上部からコフィン付近を見た分析図てすか、何かおきつき
になりませんか」
 「というと、うん、コートかすべて一つのコフィンにつなかってい

るな」
 「というよりも、私にはコフィンから全てのコードか生え出ている
ような気かします」
 「なせ、こうなっているんた。アンバサダー号、中心頭脳にリサー
「解析官、  チしろ」
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104「中心頭脳端子発見しました」
「よし、探素子を端子へ入力」
「人力OK」
「可動しているか」
「死んでいるようです」
「刺激を与えてみろ」
「ラジャー」高圧電流が放電された。
「どうやら可動し始めた様です」
「で、中心頭脳の情報はひき出せるか」
「やってみます」
 宇宙ステーションDELの中央脳に、アンバサダー号中央頭脳の
情報が転位された。
 「転位OK。終了しました」
 「じゃ、遭難時の情報をひきだせ」
 ヨーマンはコンソールを操作する。が思ったような答えがCRT
に現われない。何度もその作業をくりかえす。別のアクセスを次々
試みる。
 「ラマ解析官。だめです。遭難時のデータが出力しません」
 「なぜだ」
 「この頭脳の情報は答えています。アンバサダー号は遭難していな
いと」
宇宙ステーションDEL司令室ほとりあえず、宇宙船アンバサダ
号刀冬眠チューブをとう出ナことにした。マニュビュレーターに
{ヽヘド土入7}ニ’クしぶyヨ几スダ
 「生体反応、異常はないか」
 「OKです。変化なし」
 生命維持コフィンは、船体アンバサダー号から切りはなされるの
をいやがっているように、ョーマンには見えた。がこんな事を口に
出すべきではない。
 モニターを見ている他のステーションの乗組員は、その風景を一
種畏敬の念を持ってながめていた。
 生体反応はその一つだけ。つまり生体反応が人間とすれば▽人だ
け生きていることになる。
 そのモニターを見ていた人々はアンバサダー号の一片、わずか1
m平方の板がすべり落ち、マニュピュレーターの裏に隠れて、宇宙
ステーション中に侵入したのに気づいていなかった。その金属片は、
生き物の様に居住区を通りすぎ、地球行きのシャトルの中へ潜り込
んだ。
 見物人たちは息を飲んだ。いよいよコフィンが無菌室へ運び込ま
れた。
 アンバサダー号には25人の乗員が乗り込んでいた。そして地球を
出発して30年の月日が立っている。その間、アンバサダー号に何か
がおこったのだろうか。そしてタンホイザーゲイトには辿りつけた
のだろうか。
 コフィンの中をカメラが映す。ネームプレイトがその男の胸につ
けられていた。人々はモニターを通じ、その男の名前を口にしていた。
 「ロバート・H・ネイサン」
イン壮まるてそこ宇宝ステ『‐‐ションDEL}一いて、アンベサダ
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